私は,この度,転職が決まり,会社との間でも円満に退職日が決まりました。そこで,退職までに消化しきれなかった有給休暇の取得を申請しようとしたら,上司から「仕事の引継ぎをやってもらわないと困るから,有給休暇はあげられない」と言われました。確かに仕事の引継ぎは必要だと思いますが,未消化の有給休暇を全く使用できないのでしょうか。そうであれば,使用しきれなかった分を会社に買い取ってもらいたいのですが,それは可能でしょうか。
使用者は,退職予定日をこえて時季変更権は行使し得ないとされています。例えば,2週間後に退職したいと退職を申し出ている労働者が,残っている年休の10日間を取得して辞めたいという場合なども,その請求は認めざるを得ないということです。 また,退職間近になって,従業員に未消化の有給休暇が残っているような場合には,これを会社が任意に買い取っても問題はありません。
年次有給休暇は,「6か月間継続勤務」と「全労働日の8割以上出勤」の2つの要件を満たすことによって,(入社後6か月経過時点で)10日の有給休暇の権利が当然に発生します(使用者の許可や承認は不要です)。その後は,次表の通り,1年経過するごとに有給休暇の付与日数は,前年の日数に1日(3年6か月からは2日)加算した日数となります(上限は20日まで)。ただし,最初の期間と同様に,全労働日の8割以上の出勤率を満たさなかった場合は,有給休暇の権利は発生しません。
勤務年数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
労働基準法で定めた年次有給休暇制度は,使用目的にについて何ら制約を設けていません。また,労働者がその有する有給休暇日数の範囲内で,具体的に有給休暇の時季を指定したときは,原則として,その時季について年次有給休暇が成立し,使用者の「承諾」は必要ないことになっています。
なお,年次有給休暇の権利は,労働関係の存続を前提したものであるため,退職や解雇,事業場の閉鎖の場合には,その日(退職日,解雇効力発生日,閉鎖日)までに年休の権利行使をしない限り,残った有給休暇権は当然に消滅します。
ただし,使用者は「事業の正常な運営を妨げる場合」には,例外的に,労働者が指定する時季を変更することができます(使用者の時季変更権)。これについては,比較的厳格に解釈されており,企業の規模,有給休暇を請求した労働者の配置,作業の内容,業務の繁閑,代替者の配置の難易,同時季に休暇を請求する者の人数等諸般の事情を考慮して,制度の趣旨に反しないよう合理的に決すべきものとされています。
厚労省の通達によれば,「有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り(個々の会社で,労働基準法で認められている以上の有給休暇を従業員に付与していたような場合は別であるということ),使用者は,いかに業務が繁忙であっても,当該労働者の解雇予定日を超えての時季変更は行えない」(S49.1.11基収5554号)とされています。これは,労働者の退職の場合でも同様であり,退職予定日をこえて時季変更権は行使し得ません。したがって,例えば,2週間後に退職したいと退職を申し出ている労働者が,残っている年休の10日間を取得して辞めたいという場合なども,その請求は認めざるを得ないことになります。
なお,退職予定者が,年休日数を見込んで先日付けの退職届を提出し,そのまま休んでしまうケースもありますが,退職願提出後においても一定期間の勤務を定めた労使間の覚書を有効とした判例(後掲「大宝タクシー事件」参照)もありますから,注意する必要があります。
会社は,従業員が有給休暇は取得しやすい環境を維持する必要があります。したがって,逆に有給休暇を取得させない方向に働く,有給休暇の事前の買上げは,原則として許されません。しかし,退職時に残った有給休暇に関しては,労働者の退職によって権利が消滅するような場合に,残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることは,事前の買上げと異なるものであって,必ずしも本条(労基法39条)に違反するものではなく,労使の話し合いによって,残った有給休暇権を買い上げ,退職予定日を調整することは可能であると解されています。また,法定の日数を上回る分についての買上げも,例外的に認められています。
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大阪地判昭和57.1.29労働判例384-69
(事案の概要)
Yは,タクシー業を営む株式会社であり,Xは,昭和43年3月4日,Yの従業員となり,昭和55年7月18日,Yを退職した。
Yが,退職願提出後14日間正常勤務しなかった者には退職金を支給しない旨の,退職金支給規定についての労使間覚書に基づいて,退職願提出後8日間しか勤務しなかったXに対し,退職金を規定額の7分の5しか支給しなかったところ,Xは,Yに対し,残額の退職金および損害賠償(慰藉料+弁護士費用)の支払いを求めた。
(裁判所の判断)
裁判所は,「右覚書の規定は,退職日から遡って所定労働日の14日間に限って年次有給休暇の取得を制約されるにすぎず(退職届出から退職日までに所定労働日が14日を超えた日数がある場合の退職日から所定労働日の14日間より前の日数及び退職の場合以外の日については,年次有給休暇の取得について制約しない。),労働基準法39条3項但書の趣旨・・に鑑み,そのような制約を労使間で合意することが,同条3項の趣旨を没却することになるものとは断じ難いし,しかも,退職日及び退職届出日の設定は労働者において任意に設定でき,かつ,年次有給休暇の取得もそれをも考慮して任意に消化できることも考え併わせると,右のような制約があるからといつて,それをもつて前記覚書の規定の効力を妨げる事由とは認め難い。」と判断した。
(コメント)
なお,同事件の控訴審判決(大阪高判昭和58.4.12労働判例413-72)も,「その運用の実態については原審証人Aの証言によると,Yにおいては従業員は退職しようと思えばいつでも自由に退職できるのであつて,病気とか近親者の弔事等で乗務できないやむを得ない場合を除いて,乗務できる状態であるのに通常の乗務を7乗務(14日間)しなかつた場合には,退職金の支払を請求できないが従業員は退職届を14日よりも前に提出することを禁じられているものでもないから,7乗務を予定して,それよりも前に退職届を提出することもできるし,退職後に乗務することもできたことが認められるので,その運用は弾力性に富むものであつたというを防げず,これらの諸事情とYの退職金が報償金性の強いものであつたことを併せ考えると,前記退職金支給規定7条(2)の規定がXの主張する様に労働者の退職を困難ならしめるものとは解し難くこの点から同規定の無効をいう所論は採用し難く,また同規定を損害賠償額の予約を定めたものは解し難いので労基法16条,23条違反をいう所論も採用し難い。」として,原審の判断を支持し,Xの控訴を棄却しています。