私は,この度,転職先が決まったため,これまで務めていたA社を退職することになりました。転職先での当初の給料は安いため,A社の退職金を当て込んでいます。A社には,退職金の支給基準を定めた就業規則や労働協約などは存在しないのですが,これまで慣行として,退職金の支給がなされていたようです。もし退職金が支払われない場合,裁判によって請求することは可能でしょうか。
就業規則や労働協約などの定めがない場合でも,慣行,個別合意,従業員代表との合意などにより,退職金の支給金額の算定が可能であれば,退職金の請求が可能です。但し,裁判になった場合は,退職金の支給を受けた元同僚の陳述書や退職金の支給計算書などの証拠の収集が必要になります。
退職金は,労働協約,就業規則,労働契約などでそれを支給することや,支給基準が定められている場合は,使用者に支払義務のあるものとして(労基法上の賃金に該当し),賃金に関する労基法上の保護を受けます。 また,わが国の退職金は,算定基礎賃金に勤続年数別の支給率を乗じて算定されることが多く,賃金の後払い的性格を有するとされています。但し,会社都合退職の方が自己都合退職より支給額が多かったり,懲戒事由などがあるときは減額ないし不支給になったりする場合があることから,功労報酬的な性格も有しているとされています。
労基法には退職金請求権の直接の根拠規定がないので,労働協約,就業規則,労働契約などの根拠が必要です。但し,就業規則や労働協約などの定めがない場合でも,慣行,個別合意,従業員代表との合意などにより,支給金額の算定が可能な程度に明確に定まっていれば,労働契約の内容になっているといえます。
使用者が就業規則で退職金の支払時期を定めた場合はそれによります。但し,退職金が労基法上の賃金に該当する場合で,特段の定めがない場合には,権利者(労働者もしくはその遺族)の請求があれば,7日以内に支払わなければなりません。支払時期を過ぎると,遅延損害金が発生します。
賃金支払請求権の消滅時効期間は2年間ですが,退職金支払請求権の消滅時効期間は5年間です(労基法115条)。
退職に際して,労働者が会社に相当の債務を負っている場合は,その債務の支払いに充てるべく,退職金を放棄・相殺したとされることがあります。判例によれば,退職金の放棄の意思表示は,「労働者の自由な意思に基づいてなされたと認められる客観的な状況が存在する場合」に限って有効とされています。
懲戒解雇が有効とされる場合に,それに伴う退職金の不支給・減額の適法性については,合法説,違法説(労働者の行為により会社が損害を受けたとしたら,これを立証して損害賠償請求をすべきであり,解雇労働者の退職後の生活を脅かすような不支給等の措置は許されないとする考え方です),限定的合法説(一定の要件を満たせば,不支給・減額が許されるとする考え方)がありますが,判例の多くは,限定的合法説を採っているといわれています。
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会社側の対応は様々ですが,あなたを退職に追い込むために様々な働きかけをする事が多いのが実情です。
会社があなたの要望に応じない場合は,裁判を起こします。具体的には,賃金仮払い仮処分手続,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,事案に応じてあなたにもっとも適した手続を選択して,あなたの請求の実現を目指すことになります。
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会社側の対応は様々ですが,あなたを退職に追い込むために様々な働きかけをする事が多いのが実情です。労働者が会社に対し各種の請求を行い,対等な立場で交渉に臨むことは一般的には困難であることが多いといえます。そこで,弁護士は,あなたに代わり,情報収集のお手伝いをしたり,解雇の撤回等を求める通知を出したり,会社と交渉したり致します。弁護士の指導の下で適切な証拠が確保でき,弁護士が法的根拠に基づいた通知書を出し交渉することで,あなたにとって有利な結論を,裁判を使わずに勝ち取ることが可能です。
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東京地判平成7.6.12労働判例676-15
(事案の概要)
Xらは,Yにおいては,「退職金規程」(以下,「本件退職金規程」という。)が存在し,同規程は就業規則としての効力を有しており,そうでないとしても,同規程のとおり退職金を支給する労使慣行が確立していたと主張して,退職金の支払いを求めた。
(裁判所の判断)
裁判所は,「被告会社(筆者注:Y)においては,本件退職金規程に基づく退職金支給の慣行とともに,「懲戒その他不都合のかどにより解雇され,または退職したには退職金を支給しない。」(5条)との確立した慣行が成立していたものと認められる。もっとも,右慣行は,従業員の長年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為があった場合に退職金を支給しないとの趣旨の限度で有効であると解すべきである。そこで,これを本件についてみると,・・被告会社東京支店長であったAは,亡社長らとの間で,被告会社の経営方針等をめぐって意見が対立し,次第に亡社長らに対し批判的な姿勢を強め,昭和63年2月5日,あえて被告会社と同業種を営む訴外会社を設立し,その実質的経営者となり,被告会社(東京支店)の仕入先,販売先を奪取する行為に出るに及び,その結果被告会社に対し,多大の利益を失わせたものである。訴外会社の設立・経営は,被告会社に秘密裡になされており,その目的は,亡社長らに発覚しない間に,被告会社(東京支店)の取引先を奪うなどし,Aの経営方針に基づく会社運営を軌道に乗せることにあったと認めるのが相当である。X1はAの腹心の部下として,またX2は Aの妻として,Aとともに積極的に訴外会社の設立・経営に参加し,被告会社に在職していながら訴外会社の事業活動に従事していたものであって,右両名が被告会社に対してとった行動は極めて背信的というほかはない。したがって,右両名について,本件に顕れた有利な情状を考慮しても,長年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為があったという,きであり,前記退職金を受給することはできない。しかしながら,X3及びX4については,訴外会社の設立に関与してはいるが,被告会社在職中に訴外会社の事業活動を行った形跡は認められず,Aらが被告会社を懲戒解雇された昭和63年6月15日からしばらく経た後に被告会社を自己都合退職したものであって,右両名について,長年の功労を抹消してしまうほどの不信行為があったということはできす,前記退職金受給権を失わないというべきである。」と判断した。
(コメント)
本判決は,案として作成・書面化された退職金規程に基づく退職金支給慣行の存在を肯定しましたが,そこにおいては同時に「懲戒その他不都合のかどにより解雇され,または退職した者」には退職金を支給しないとする慣行が成立していたとして,右慣行は,従業員の長年の功労を抹消してしまうほどの不信行為があった場合には退職金を支給しない趣旨の限度で有効と解すべきとしています。
横浜地判平成9.11.14労働判例728-44
(事案の概要)
Yは,教育基本法及び学校教育法に基づき学校教育を行うことを目的とし,この目的を達成するためにA洋裁学院(以下,「洋裁学院」という。)とB幼稚園を設置している学校法人であるところ,Xは,Y経営の洋裁学院に教員として勤務していたが,平成8年3月31日をもって洋裁学院を退職した。
Xは,Yの労使間において退職金が支払われてきた根拠は,昭和44年4月以降に洋裁学院に就職した教職員には退職基金財団の運営規則によって支払われ,昭和44年3月以前から在職している教職員には,就職時から通算して支払われる(給付乗率は運営規則を準用)という黙示の合意が存在していたことによるものであり,仮に,黙示の合意が存在しないとしても,労使間に在職期間を通じて退職金が支払われてきた労使慣行があり,右慣行はXとYとの労働契約の一部となっていたものであるから,YはXに対して在職期間を通算して退職金を支払う義務があるとして,未払退職金の支払いを求めた。
(裁判所の判断)
裁判所は,「Yは,平成6年2月14日から実施された洋裁学院の就業規則には退職基金財団の規定内で退職金を支払う旨の規定があるが,実際は,右就業規則実施の前後を通じ,退職基金財団から支払われた退職手当資金に,これと昭和44年3月以前に現実に在職した全期間による給付乗率に置き換えて算定した額との差額をY「持出分」として加算し,これを退職金として支払っているものであって,右基準による退職金の支給はYにおいて確立した慣行になっていたと認められるから,右慣行はYとXとの雇用契約の内容となっていたと認めるのが相当である。」と判示して,Xの請求を認めた。
灘萬・灘萬商事事件
大阪地判昭和54.11.27労働判例334-45
(事案の概要)
訴外A(以下,「A」という。)は,昭和31年8月Y1に,同38年11月7日Y2にそれぞれ入社し,同51年3月4日死亡により退職するまで勤務した。
Aは,昭和51年3月4日死亡し,Aの妻であるX1,子であるX2,X3は相続によって亡Aの一切の権利義務を承継取得した。
(裁判所の判断)
裁判所は,「Y2の就業規則をみてみると,従業員の定義として,3条は,「この規則で従業員とは第28条に定めるところにより採用された会社の業務に従事する者をいう。」と規定し,28条は,「会社は就職を希望する者の中より選考試験に合格した者を従業員として採用する。但し,義務教育終了以上の者とする。」と規定している。そして,右従業員は,通常の場合右就業規則に規定された「第2章勤務」「第3章服務規律」以下の規定の適用を受け,これに従って業務に従事しなければならないものであり,右「勤務」の規定によると,従業員の就業時間は各勤務場所毎に始業・終業・休憩時間を区切って明確に定められ,休日についても特別の日をもって,また,休暇についても年間の日数を限って認める旨それぞれ規定されているのであり,賃金についても賃金規定に従って賃金の支払を受ける旨定めているのである。右就業規則の規定を総合すると,Y2の退職金規定において予定している「従業員」とは,Y2に所定の手続を経て入社し,同社の就業規則に定める勤務時間,休日,服務規律等の規定に従って,所定の各勤務場所においてその業務に従事し,その対価として賃金を得ている者であるということができるところ,・・Aは,Y2に毎日所定時間に出勤して業務に従事するというのではなく,いわば,勤務日,勤務時間などを特に定めることも,右就業規則に拘束されることもなしに事務処理を行なっていたのであり,その職務としては,代表取締役,取締役の地位にあるときも,また,その地位にないときも一貫して経理,経営に関する事務を管理・監督的立場で処理していたということができ,さらに,Aは,Y2の職務のみに専念従事するのではなく,同社以外にもY1をはじめとして数社の経営又は税務相談等に関与し,その報酬を得ていたものということができる。右の諸点を考慮すると,AのY2における地位は,右退職金規定において予定する従業員には当らないことが明らかであり,また,右従業員に準じて右退職金規定の効力を及ぼすべき場合にも当らないというべきである。よって,Aは,Y2の退職金規定の適用を受け得ないから,XらのY2に対する退職金請求は,その余の点について判断するまでもなく失当といわなければならない。」とした。
東京地判平成7.2.27労働判例676-64
(事案の概要)
Yは,天然イオン配合化粧品「イオナ」の製造・販売を主たる業とする株式会社であり,Xらは,Yの元従業員であり,いずれも平成4年9月30日,Yを退職した。
Xらは,各XとY間において,Yは,各Xに対し,規定の退職一時金とは別に,退職功労金及び給与・賞与補償金を,退職日が平成4年9月30日以前の場合は,同年10月20日限りこれを支払う旨の合意(以下,「本件合意」という。)が成立したと主張し,その支払を求めた。
(裁判所の判断)
裁判所は,「(Yの)社長Aは,退職慰労金に関し,Xら(X4を除く)との間で,平成4年7月1日から同月30日までの間に,X1及びX2に対し,Yから各金1000万円,社長Aの退職金から各金1000万円と,平成4年10月分ないし12月分の給与相当額,X3に対し,Yから金1000万円,社長Aの退職金から金500万円と,平成4年10月分ないし12月末分の給与相当額,X4との間で,平成4年7月6日頃から同月30日までの間に,X4に対し,Yから金1000万円,社長Aの退職金から金350万円と,平成4年10月分ないし同5年3月分の紹与相当額の各支払をする旨の合意をなしたものと認めるのが相当である。」として,Xらの請求を認めた。
大阪地判平成10.10.30労働判例750-29
(事案の概要)
Xは,平成2年5月31日,Yに雇用され,以後事務員として勤務し,同9年9月末日退職した(退職が解雇によるものか否かは争いがある。)。
Yには退職金規定は存在せず,中小企業退職金共済法に基づく退職金共済制度(以下,「中退金制度」という。)その他の退職金共済制度にも加入していない。
Yは,職業安定所に提出した求人票に,「退職金有り」「退職金共済に加入」と明示して従業員を募集し,Xは,右求人票を見てYに応募し,採用されたものである。
Xは,採用に際しては,右求人票記載の条件と異なった条件を示されたことはなく,XY間では,退職金を支給することが労働契約の内容となっていたというべきであると主張して,Yに対し,解雇予告手当および退職金を請求した。
(裁判所の判断)
裁判所は,「求人票は,求人者が労働条件を明示したうえで求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので,求職者は,当然に求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になることを前提に雇用契約締結の申込みをするのであるから,求人票記載の労働条件は,当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情がない限り,雇用契約の内容になるものと解すべきである。そして,・・原告(筆者注:X)と被告(筆者注:Y)の間で雇用契約締結に際し別段の合意がされた事実は認められず,(Yの代表者である)Aも退職金を支払うことを前提とした発言をしていることに鑑みると,本件雇用契約においては,求人票記載のとおり,被告が退職金を支払うことが契約の内容になっていたと解される。・・・退職金の額については,求人票に額又は支給基準が明示されているわけではないから,その具体的内容は雇用契約締結時の当事者間の合意に委ねられていると解すべきであり,かかる合意が認められない本件では,退職金の額を確定することは本来は不可能であるというほかはない。しかしながら,本件では,求人票に退職金共済制度に加入することが明示されているのであるから,被告は,退職金共済制度に加入すべき労働契約上の義務を負っていたというべきであり,原告は,被告に対し,少なくとも,仮に被告が退職金共済制度に加入していたとすれば原告が得られたであろう退職金と同額の退職金を請求する労働契約上の権利を有するというべきである。かように解しないと,退職金共済制度に加入することが雇用契約の内容になっていたにもかかわらず,被告がこれを怠ったことによって,事実上退職金の支払を免れることになり,相当でないからである。そして,退職金共済制度としては,明示がない限り,中退金制度を指すものと解すべきである。この点について,被告は,求人票に記載された退職金共済制度は,商工会議所の共済制度を想定したものであると主張する。しかしながら,・・商工会議所の共済制度の方が最下限の退職金額が低く,原告に不利であるとが認められるところ,退職金共済制度に加入しなかったことにつき責任がある被告を利するのは相当でないので,原告に有利な中退金制度を前提とすべきである。・・掛金を自由に設定できる中退金制度においては,現実に加入していなかった以上,加入していた場合の退職金を仮定することは本来は不可能であるが,少なくとも,中小企業退職金共済法における最下限の掛金によって計算した退職金については,被告に支払義務があるということができる。」として,原告の退職金請求を認めた。
(コメント)
本判決は,退職金の請求権について,求人票記載の労働条件は,当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がないかぎり,雇用契約の内容になるものと解すべきであるとして,求人票記載のとおり,被告が退職金を支払うことが雇用契約の内容になっていたと判断した点に特徴があります。