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懲戒解雇される前に行うべき6つのこと

懲戒解雇される前に行うべき6つのこと

事例

私は会社で業務上のミスをしてしまい会社に損害が発生してしまいました。すると,先日,社長から呼び出され懲戒解雇とする見込みなので,自宅待機するように言われました。処分は追って言い渡すとのことでした。確かに,ミスをしてしまったのは事実なのです。しかし,取引先担当者のミスがきっかけで発生したミスで必ずしも私一人の責任ではないと思います。また,会社に発生した損害は僅かです。これで懲戒解雇とされるのはとても納得がいきません。このまま懲戒解雇が言い渡されるのは待つことしかできないのでしょうか?何かするべきことがあれば教えてください。

不当解雇

回答

ご相談の内容ですと,ミスはあるものの,原因は他にもあることや損害が軽微であることなどから,懲戒解雇とするのは明らかに重すぎると思われます。よって,懲戒解雇は無効となる可能性が高いと言えます。しかし,会社が一旦懲戒解雇を言い渡した場合,仮に無効となる可能性が高いとしても簡単には解雇を撤回しません。もちろん法的に争い復職等を勝ち取ることは可能ですが,法的手続による解決が出るまでそれなりに時間や手間がかかってしまいます。できれば,懲戒解雇をされないことが一番でしょう。その為には,①懲戒処分の前に弁明の機会が与えられた場合は必ず弁明を行う,②会社から弁明の機会が与えられない場合であっても弁明を行う,③自己に有利な証拠や資料を提出する,④自己に一定の非がある場合はそれを認めて反省の意思や再発防止を表明する,⑤懲戒解雇をしないよう求める,⑥懲戒解雇が有効となる可能性がある場合は自主退職することも検討するなどを行うべきでしょう。

 

解説

1 会社は簡単には既に行った懲戒解雇を撤回しない

懲戒解雇は,普通解雇に比べて極めて厳格な要件の下その有効性が判断されます(労働契約法15条,同法16条)。それゆえ,会社が懲戒解雇可能と考えたとしても,法的には懲戒解雇は無効といえる場合も多くあります。

しかし,会社が一旦懲戒解雇を言い渡した場合,仮に無効となる可能性が高いとしても簡単には解雇を撤回しません。会社組織として下した判断を容易に撤回できないという組織の論理や懲戒解雇した社員が会社に戻ることによる混乱を恐れるなど理由は様々です。

もちろん法的に争い復職等を勝ち取ることは可能です(>>「懲戒解雇への対応方法」)が,法的手続による解決が出るまでそれなりに時間や手間がかかってしまいます。

その為,できれば懲戒解雇をされないことが一番でしょう。その為に懲戒解雇される前に行うべきことは以下のとおりです。

2 弁明の機会が与えられた場合は必ず弁明を行う

2.1 弁明の機会とは?

懲戒解雇を行う場合,適正手続が要求され,その一環として弁明の機会が与えられることがあります。弁明の機会を与えずに懲戒解雇を行うことは懲戒解雇の有効性を疑わせる事情の一つとなるからです。そこで,弁明の機会が与えられた場合は,必ず弁明を行いましょう。

2.2 弁明の内容

弁明するべき主な事項は以下のとおりです。

A 懲戒事由の対象となる事実関係について
...事実か否か,事実と異なるのであればその理由など
B 自己に有利な資料や証拠の説明
...Aで主張する事実を裏付ける証拠や資料を提出して説明します
C 反省の意思の表明
...自己に非がある部分については反省の意思や再発防止に向けた意思表明をします

2.3 弁明の方法

基本的には書面(弁明書)を提出して行います。弁明で述べたことを証拠として残すという意味があります。

弁明の機会は懲戒委員会の場や社長・人事部との面談の場などにおいて,口頭で行う方法がとられることもあります。その場合も書面を提出した上で口頭にて行うという方法をとった方がよいでしょう。また,口頭による弁明の場が与えられた場合はICレコーダーなどで録音を取るようにしましょう。録音することは敢えて告げる必要はありません。

3 会社から弁明の機会が与えられない場合であっても弁明を行う

会社から弁明の機会を与えられない場合もあります。その場合であっても,自ら積極的に弁明を行いましょう。内容や方法は2のとおりです。

4 自己に有利な証拠や資料を提出する

会社は必ずしも正確に事実関係を把握しているとは限りません。事実無根であるにもかかわらず懲戒処分が行われることもしばしばあります。

そこで,出来るだけ自己に有利な証拠や資料を会社に提出しましょう。資料や証拠を出した場合,会社はそれを無視して事実認定を行うことは出来なくなり,懲戒解雇を回避する効果があります。

5 反省の意思や再発防止を表明する

労働者側に明らかに非があるにもかかわらず,自己の正当化に終始し一切反省の意思を表明しない場合は,「反省の意思がない」「改善の見込みがない」などと懲戒解雇を有効にする方向の事情となってしまいます。

そこで,自己にも一部でも非がある事実があるのであれば,反省の意思を表明した方がよいでしょう。

また,単に反省の意思を示すだけでは説得力がありませんので,具体的な原因や改善策・再発防止策も併せて表明するとよいでしょう。

表明の方法は弁明書の中に記載するという方法が多いでしょう。

6 ⑤懲戒解雇をしないよう求める

事実関係に基づけば懲戒解雇は明らかに無効となるので懲戒解雇はしないよう要請することがあります。通常は,専門家である弁護士に依頼し,弁護士を通じて行います。

法律専門家である弁護士による意見になるので,会社は懲戒解雇を行いにくくなります。これにより会社に対して一定の抑止効果が期待できます。

7 自主退職することも検討する

7.1 自主退職を検討するべき場合

以上の方法は事案的に懲戒解雇の有効性が争える可能性が高い場合に懲戒解雇の回避をするために行うものになります。

もっとも,明らかに懲戒解雇が有効となってしまう可能性が高い場合,いくら懲戒解雇の回避を求めたところで,その効果は期待できないこともあります。特に会社側の懲戒解雇を行う決意が固い場合には期待できません。

そのような場合は,懲戒解雇を回避するために自主退職をすることも検討するべき場合があります。懲戒解雇を受けた労働者は他の企業に再就職することは事実上極めて困難となります。懲戒解雇となるくらいであれば,自主退職した方がよいという場合もありえるのです。

また,退職金を得るためにも意味があります。懲戒解雇の場合は退職金が一部又は全部を没収されることがありますが,自主退職の場合は通常は退職金を受けることができます。

7.2 自主退職の方法・タイミング

では,どのような方法・タイミングで自主退職をすればよいのでしょうか?

① 会社と交渉により合意を得て退職する

まずは,懲戒処分を検討している会社と交渉し,反省の意思を示しつつも,自主退職するので懲戒解雇を回避して欲しいこと,退職金も自主退職扱いで支給してほしいことを,お願いします。

この場合,会社に貢献していた場合や情状酌量の余地がある場合,懲戒解雇が完全に有効とは言い切れない場合には,会社も応じてくれることがあります。

なお,懲戒解雇を行うことは会社にとっても紛争リスクを抱えることになるので,リスク回避の観点から自主退職とすることを会社から提案することもあります。また,懲戒解雇が無効となる可能性がそれなりにある場合(50%以上)などは,交渉によって,退職金の他に解決一時金の支払いも受けられることもあります。

② 退職届を提出する

上記①のような交渉の余地が無い場合は,退職届を会社に提出します。

退職届を出した後,原則として2週間後に退職の効果が生じます(民法627条1項)。それまでに懲戒解雇が言い渡されなければ,自主退職の効果が発生し,それ以後は懲戒解雇をすることは出来なくなります

【関連記事】>>「退職届を出した後,懲戒解雇されるのか?」

それゆえ,懲戒解雇される可能性がある場合は,直ちに退職届を会社に提出することになります。

方法は,内容証明郵便(配達証明付)で送付する方法やメールなど,後で証明できる方法をとるべきでしょう。上記のとおり退職届の効力が発生するタイミングと懲戒解雇が言い渡されるタイミングが重要な意味を持つからです。

対応方法

1 まずは事実の確認

以下の事実を確認しましょう。

  • □ 会社が考える懲戒事由や就業規則上の根拠条文は何か?
  • □ 就業規則に懲戒処分の根拠条文はあるか?
  • □ 懲戒事由について,反論できる事実や証拠はあるか?また,労働者の落ち度は無かったか?
  • □ 弁明の機会はあるか?懲戒委員会による事情聴取はあるか?

2 証拠の収集

以下の証拠を確認しましょう。

  • □ 就業規則・退職金規程
  • □ 自己に有利な事実関係を裏付ける証拠
  • □ 会社が主張する事実を覆す根拠となる証拠
  • □ 会社が交付した懲戒事由についての弁明告知書

3 会社との交渉

まずは,裁判等を用いず,会社と交渉して,あなたの望む結果(懲戒解雇の回避等)が得られるようにします。裁判をするよりも,時間・費用を節約できるというメリットがありますが,会社が交渉に応じない場合は解決の強制力がないというデメリットがあります。労働者が自分で交渉することもできますが,会社が交渉に応じないことが多いのが実情です。その場合は,弁護士に依頼して交渉することが一般です。

4 裁判

会社があなたの要望に応じずに懲戒解雇をした場合は,裁判を起こします。具体的には,労働審判手続,訴訟手続などがありますが,事案に応じてあなたにもっとも適した手続を選択して,あなたの請求の実現を目指すことになります。交渉と比べて,解決に強制力があるというメリットがありますが,時間・費用がかかるというデメリットがあります。労働者が自分で裁判をすることもできますが,手続が極めて難しい為,弁護士に依頼して裁判をすることが一般です。